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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜入りの甘いコーヒー

田中へいた

 

 毎日、帰宅するとコーヒーを淹れる。会社で働いたあと、夕食を作ったり洗濯物を取り込んだりする、そのもうひと頑張りのために飲む。
 たまに、本当にくたびれた夜もある。すぐに寝てしまいたいが、そういう夜に限ってどうしてもやっておきたいことがあったりする。
 そんな夜は、蜂蜜だ。いつも通りコーヒーを淹れて、蜂蜜の瓶を取り出す。蓋を開けて、スプーンを突っ込んで、ひと匙すくったままコーヒーを淹れたサーバーに入れてかき回す。つんと、甘い香りが鼻をくすぐる。カップに移して一口飲むと、苦くて甘くて元気が出る。
 蜂蜜の瓶は、夏に買う。姉のところのお中元にひとつ。「お裾分け」と言いながら自分にもうひとつ。買うのはいつも同じ店だ。家の近くのマルシェで会った、自家製蜂蜜を売るお店。
 店主は自分と同じ年くらいの女性で、ご両親が養蜂家なのだという。店舗は県外にあって、だからネットで注文する。毎回届く荷物に手書きの蜂蜜ジュースの作り方が載っていた。作ってみるとこれが美味しい。「蜂蜜ジュース、美味しかったです」と次の年のお中元の注文の時「その他お店に伝えたいこと」の欄に入力した。
 「いつもご注文ありがとうございます」その年届いた蜂蜜には手紙がついてきた。時効の挨拶と、最近のこと。元気がない時は蜂蜜ジュースがいいこと。文通みたいだと私は思った。とはいえ、お店のお客さんだからもらっている手紙には違いない。返事の手紙を書くことは我慢した。その代わり、また次の年も蜂蜜を頼んだ。「その他お店に伝えたいこと」に一言添えて。
 蜂蜜と一緒に手紙が来る。お店の方が最近読んだ本を紹介された。もちろん読んで、ウェブで感想を伝えた。資格勉強をする夜に蜂蜜を舐めていることを打ち明けると、「バリバリ仕事しているのが目に見えるようです」と手紙をもらった。本当はそんなにできる人間でもないが、そこは内緒しておいた。
 もう何年になるだろう。蜂蜜につく手紙に「その他」の入力。七月に一回だけのやり取りなのに、ずいぶん思い出ができた気がする。蜂蜜を舐めるたびに元気が出るのは、蜂蜜がただ甘いからだけじゃないだろう。
 「じゃ、頑張りますか」
 蜂蜜入りのコーヒーを飲み干して呟く。手紙好きの蜂蜜屋さんのことを考える。彼女のイメージ通り、バリバリ、働き蜂みたいに頑張る。蜂蜜入りの甘いコーヒーを飲んだ夜だけは。

 

(完)

 

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